Kanako Kitahara's Blog
あおもり創生パートナーズ株式会社さんの機関紙であるRégion に「ヒバと藍と青森―歴史の中に魅力を探る―」を文章を寄稿しました。字数の制限がありましたので、原稿を元に書き直したものをここに紹介していきます。最終回は、ヒバと藍の活用についてです。
**************************
ヒノキチオールは発見当時その抗菌性に注目が集まり、医薬品としての製品化も試みられますが、抗生物質としてより強い機能を持つペニシリンが先行し、方向転換しました。ただ耐性菌を作らないという天然物特有の特性を活かした実用化が試みられ、今では穏やかな効き目を持つ製品として身近なところで目にすることができます。青森県は全国一のヒバ林を有することから、ヒバ材活用は青森県ならではの事業になるだろうと思います。
藍に関しては、抗菌性や抗ウイルス性などの作用に加え、最近では弘前大学大学院理工学研究科の川上淳先生がトリプタンスリンの誘導体による蛍光色素の研究を進めておられます。生体分子や金属イオンの蛍光検出など、広い範囲での応用が可能な蛍光色素の研究は、藍の持つ可能性の新たな展開につながることが期待できます。(川上淳「藍からはじまる蛍光性トリプタンスリン研究」『色材協会誌』97巻(2024)3号pp.86-90.)。
また二年ほど前のこと、私は福岡県久留米市の「久留米藍草生産者協同組合」さんからお招きいただいて、藍のお話をしたことがありました。そのときに伺った同組合さんの取り組みは、畜糞尿や有機性汚泥を消臭・発酵させて肥料とし、化学肥料や農薬を使わずに土地を再生しながら藍の収穫増量を目指す試みでした。
今、久留米では藍栽培面積の拡大に力を入れているそうです。2000年に藍の研究を始めたとき、私たちには、青森県内の休耕田に藍を植えることで土地の再活用になればいいという思いがありました。ですので、「農家が藍で安定的に食べていけることが大事なんです。目指すべきはジャパン・ブルーの振興です」と語っておられた組合長さんのお話は、とても魅力的でした。
藍は古くから日本の風土や生活に強く根付き、染色材料あるいは食用の素材として藍の生産に取り組む地域は全国各地にあります。しかし抗菌性という新たな視点を確立したのは弘前大学教育学部です。藍にこだわり強い日本の中で、活用のステージを変えたという意味において、青森県は国内の藍染特産地に負けない立ち位置にいると考えて良いと思われます。
私も長いこと藍について研究推移を見てきました。その上で感じるのは、なぜ藍なのか、藍でなければならないものとは何なのか、ということです。これは藍の生理活性物質活用の原点ではないかと思っています。また天然物の活用全体に言えることですが、薬事法をふまえた上でのコストダウンも必須の課題だろうと思います。個人的には藍の魅力は最終的に色に帰着するのかなと感じていますが、これからも藍の栽培・活用に取り組む人たちが全国で増えることを祈りながら、筆を置きたいと思います。