Kanako Kitahara's Blog
あおもり創生パートナーズ株式会社さんの機関紙であるRégion に「ヒバと藍と青森―歴史の中に魅力を探る―」を文章を寄稿しました。字数の制限がありましたので、原稿を元に、より詳しく加筆したものをここに紹介していきます。4回目は「宇宙飛行士山崎直子さんの船内被服」と「動体裁断・抗菌性」です。
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宇宙飛行士山崎直子さんの船内被服
青森県で現在藍の事業を展開しておられる「あおもり藍産業」さんを立ち上げた吉田さんは、当初東京都の両国にある丸和繊維工業株式会社青森工場の工場長さんでもありました。吉田さんたちの藍染に、親会社丸和繊維工業常務(当時)の伊藤哲朗さんが深い理解を示し、JAXA(宇宙航空研究開発機構)への公募の件を提案したそうです。
公募申請書は伊藤さんのアイデア満載でした。伊藤さんは藍の持つ抗菌性データと、伊藤さんが信頼する中澤愈(すすむ)先生が開発した「動体裁断」という二つの要素を組み合わせたポロシャツを提案しました。その背景として、あおもり藍産業さんなどの地場産業活性化の取り組みや、青森県という地名と宇宙のブルーを連想させる要素を組み合わせており、伊藤さんは締め切りギリギリまで推敲を重ねて、茨城県つくば市にある宇宙技術開発機構まで申請書を直接持ち込んだそうです。隅々まで配慮が行き届いたこの提案は全国から応募があった厳しい競争を見事に突破して、山崎直子さんはあおもり藍産業さんの仕立てたポロシャツを船内で着用してくれました。
動体裁断とは
ここで、この申請書採択の鍵の一つであった「動体裁断」について説明します。これは、「機能系衣服デザイナー」の中澤愈氏が動体原型に基づき、人体解剖で皮膚を分析し考案したもので、運動時の動きや姿勢に合わせて生地を裁断する、立体裁断よりさらに一歩進んだ四次元的の衣服設計です。
この技術によって作られた製品は通常製品とは違い、身体の動きにフィットした非常に着心地の良い製品です。(例えば、腕を上げたり、しゃがんだりしても、裾が出たりせず着崩れをおこしません。)
ここに、申請者である伊藤さんからご提供いただいた図面を載せてみます。中澤先生の技がどのように被服に生かされたか、ご理解いただけると思います。
中澤愈先生のご考案になるもので、人体への深い洞察に基づいた服作りの技です。(詳しくはこちらをどうぞ)
この申請書に記載された抗菌性データは、北原研で行った天然藍染液と藍産業さんの藍染液とを比較した時のものです。その実験をした学生さんは、今、青森市内の中学校で教員をされています。つまり、理科の先生を目指した学生さんたちが力を合わせた研究成果でした。
研究者の視点から見ると、誰が何にどのような価値を見出したのか、ということが重要になります。山崎直子さん着用のポロシャツの件は、青森という地名、藍染、そして抗菌性という要素を組み合わせた伊藤哲朗さんの着眼であったこと、さらに弘前大学教育学部の学生さんたちの地道な努力が、それをバックアップしたことは、ここに書いておきたいと思います。